エイジング・・・リフォームでしか実現できないこと

エイジング、とは少々耳慣れない言葉だと思うが建築の世界で最近とみに使われることが多くなっている。<エイジ>つまり<年齢>に<ing>が付いて、歳を取ること、年齢を重ねること、を指している。いい歳の取り方をしているね—という褒め言葉で、もう歳で駄目!という時には使わない。

「リフォームなので、ピカピカの新築というわけには行きません」という言い方は謙遜して言っているんで、「リフォームだなんてちっとも気が付きませんでした。」という合いの手を期待しての発言で、新築が一番で、中古はどうしてもかなわないという価値観が前提としてシッカリあるということである。こうした価値観に一矢報いることができるのがこの「エイジング」という言葉で、新築では決して出せない「味」、これが狙い、この味を出したくてリフォームにしたんですよ、と言い切ることで「家自慢」に思想性をにじませることができる。

「古色仕上げ」という呼び名がある。
文字通り古びた色の仕上げということだが、100年も経とうと思われる神社仏閣などで、修繕で新しい木材を加えたときなどに、その部分の削りたての新品の色を嫌って、わざと古材に似せかけて茶褐色の渋い色を塗ることを言う。
欧米の家具などでもアンティーク調といって年季ものに似せかけて、傷や色むらなどを加えて古びた色を塗り重ねて仕上げる手の込んだものもある。

そもそも木材の塗装は、白木のままではなく、染色して、その木目が最も引き立つ色をのせてからオイルやニスを塗るのが西洋流で、
日本でも染色の後にウルシを塗るわけである。つまり木材は新品でも木目そのものがエイジングを語ってくれているので、その木目・年輪を効果的に見せる塗装を施しているのである。

マンションの世界では、重厚な渋い色づかいをした木のデザインが大流行である。ところが、ほとんどの場合その木部は木目を印刷した合成樹脂のシートを接着剤で張り付けたものなのである。シートには木肌の凹凸も気孔も立体的なプレス加工を同時にかけているので、よほどのベテランでも本物と騙されてしまう。つまりエイジングの写真を見せられているわけである。

エイジングとは本物に拘る人の感性が求めているもので、その人に写真を売って、本物のように見せかけているのは,人を騙している
ようで心苦しくはないのだろうか。10年、20年と時間が経つと本物はエイジングに磨きがかかってどんどん良くなっていくのに対して、写真のほうは時間が固定してしまっているので全く変わらない。

そして何十年後かはわからないが突然接着剤が剝がれ、シートが捲れ、無残な姿を晒すことになる。

新築マンションを売っている人の話だが、「このような偽物の写真技術で木部を覆うようになった根本原因は購入者の側にある。」というのである。自分たちの悪いところを購入者に転嫁するなんてとんでもないと思って聞いていたが、つまりこうである。自然のままの材料で作って木地を見せて塗装をすると、十人十色で木地の違いで様々な色になる。最初に見せられた塗装見本と色が違っているとクレームになる。そのクレームが嫌で写真を貼るようにしたというのである。

もう30年も前にハウスメーカーが始めた手法があっという間にマンションの世界に広がり、今ではリフォームの世界もこの手法に毒されはじめている。果物や野菜が、出荷時に色・形で選別され、規格に合わないものは買い取ってもらえないという。「不揃いの林檎たち」であっても鮮度も味も変わらない、むしろ一つ一つの形の個性やクセに目が行けば、この世に一つしかない林檎に拘りや愛着も生まれる。

材木も、色味が違い、木目が違い、節だってあちこちにある。それを丁寧に削って、塗装して、一本一本の風合いに拘って仕上げてもらえば、この世に二つとない価値が解ってもらえるものになる。

リフォームの世界は、どんなにたくさん仕事をしても、一軒一軒が一品生産である。なかなか大量生産の手法を投入することはできない。だから大工さんを大切にし、塗装屋さんを大切にし、左官屋さんを大切にして仕事をしてきているのである。

新築の世界ではとうの昔に出来なくなったこと、ほんもののエイジング、これに拘る仕事がまだまだ残っている。