スケルトン・インフィル(2)

長期優良住宅認定制度という住宅の補助制度がある。長期とは200年位をイメージしていて、その200年の間に数世代の人々が住み継いでいくことを想定された住宅を助成する仕組みである。親子孫という相続だけでなく、売買で何人もの他人の手にわたるという所までも見通した制度なのである。

日本の住宅は短命だと言われている。木造は30年、鉄筋コンクリートは60年が耐用年数だと覚えてしまっている人もいる。これは大いなる間違いなので、しっかりと記憶を訂正しておいてほしい。

木造は30年、鉄筋コンクリートは60年というのは、会計上の減価償却の話で、実際の建物の耐久性を示している数字ではない。減価償却とは、ある建物を建設してそれが会計上の資産に繰り入れられた時から、その資産が毎年毎年、目減りして、木造ならば30年後、鉄筋コンクリートならば60年後にその建物の資産価値がゼロとカウントされる仕組みである。

その目減りして行っている金額相当分については「経費」として処理することが認められていて、つまり利益圧縮の効果がある。従って企業は皆このようにして会計処理をしている。もしもこのお金が30年間あるいは60年間積み立てられているならば、30年後あるいは60年後に同等の建物を建て直す時の資金には税金が結果的に免除されたことになるという理屈である。

なぜか、この会計上の優遇措置の話が、現実の耐久性と勘違いされて、30年(60年)で寿命が来た、とか、もう30年(60年)経ったので無価値だから取り壊しても良いのだなどと思い違いしている人が多い。

この思い違いを助長しているのが、鉄筋の上に覆われているコンクリートの「かぶり厚さ」が60年基準で決められていることである。

コンクリートはもともとアルカリ性を示しているが、空気中の炭酸ガスを吸ってこれが次第に中性の方向に変化していく。この進行速度は極めてゆっくりしていて、1年間に表面から約0.5㎜程度のスピードで進むと言われている。中性化すると鉄筋が錆びやすくなって、やがて鉄筋の強度が低下して、それが建物の強度も弱くする。つまりコンクリートの表面から中性化が鉄筋に到達するまでに60年かかることを見越してかぶり厚さを決めたのである。

建築の何処の部位(床・壁・屋根など)か、土の中にあるかどうかなどで、この進行スピードは異なるのだけれど、そのかぶり厚さを決める時に使われた年数が60年なのである。

やっぱり、鉄筋コンクリートの寿命は60年じゃないか!と思われるかもしれないが、鉄筋コンクリートが完全に中性化しても、建物の強度は決して低下しません。その時点で鉄筋の近くに空気と水が入り込んだ時にようやく鉄筋は錆び始めるのであって、空気と水を完全に遮断してやれば、決して錆は発生しません。

築80年経って完全に中性化した鉄筋コンクリートの集合住宅の再生を成功させた経験があるが、その時にはこの空気と水の遮断のために、ポリマーセメントモルタルという材料を15㎜の厚さで建物全体を包んだ。このことで、築140年までの耐久性は保証された。60年後には再度同様の措置を繰り返し、築200年を目指す予定である。

つまりコンクリートの寿命は60年というのは全くの誤りである。同様に、木造の寿命が30年というのも誤りで、そんなことを言ったら、法隆寺の1000年という年数はどうやって説明すればよいのだろう。

長期優良住宅の200年という年数は、鉄筋コンクリートであれば、十分なかぶり厚さを確保し、中間時にきちんとしたメンテナンスの措置を繰り返し行うことを条件に、算出されたものなのである。

この長期優良住宅が実はスケルトン・インフィルの最高峰のモデルで、今盛んに大手ゼネコンが競いあって取り組んでいる所のものなのである。

ところが、このモデル、最高峰だけあって、実に隅々まで良く考えてあって、認定を受けるためのハードルが高い。それで中々普及していかないという悩みを抱えている。

例えば、耐震性の規準でいうと、建築基準法の1.25倍という強度が要求されている。

前回書いたように、スケルトン・インフィルはもともと、ヨーロッパの都市内の普通の住宅が何百年もの間長く使い続けられてきた知恵に学ぶことからスタートした思想であって、必ずしもトップランナーを認定するための思想ではない。

その思想は、一部の極めて優れた住宅にも適用できるわけだが、ふつうのありふれた、何処にでもある住宅にも役立つ思想であるべきだ。